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横浜地方裁判所 平成4年(行ウ)10号 判決 1992年9月16日

主文

一  原告の訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第一  原告の申立及び主張は、別紙一請求の趣旨及び原因記載のとおりである。

第二  被告の申立及び主張は、別紙二本案前の答弁、本案の答弁及び被告の主張記載のとおりである。

第三  《証拠関係略》

第四  本件訴えの適否について

一  原告は、昭和六二年三月期及び昭和六三年三月期の法人市民税につき、別紙1記載のとおり(但し、納付日欄のうち、六二年一一月二七日とあるのは、同年一一月三〇日である。)申告納付したところ、被告は、平成三年八月一三日付法人等の市民税更正通知書により減額更正をして過納金を生じたため、別紙2記載のとおり、同年九月一九日付市税過誤納金等還付(充当)通知書を原告に送付して、過納金及び還付加算金を振込入金した(争いがない。)。

二  原告は、この場合において、還付加算金の加算又は不加算を行政処分と把え、これにつき計算を誤つた瑕疵があるとして、その取消を求めるので、まず、過納金の還付及び還付加算金の加算の性質について検討する。

地方税法は、地方団体の長は、過誤納金があるときは、遅滞なく還付すべきものとし(一七条)、過誤納金を還付する場合には、同法及び同法施行令の定める起算日から還付のため支出を決定した日までの期間の日数に応じ、その金額に年七・三パーセントの割合を乗じて計算した金額(還付加算金)を、その還付すべき金額に加算しなければならないこととしている(一七条の四)。

ここに誤納金とは、無効な更正・決定等に基づいて納付徴収された租税、確定した税額を超えて納付徴収された租税などのように、実体法的にも手続法的にも、納付又は徴収された時点から既に法律上の原因を欠いていた徴収金のことである。また、過納金とは、申告・更正・決定等租税債務の内容を確定すべき行為に基づき、それによつて確定された税額が納付徴収された後に、その税額が過大であつたため、更正・決定等が取り消され、あるいは減額更正がなされ、それによつて減少した差額に相当する徴収金のことである。したがつて、これは、租税手続法的には納付又は徴収の時点においては、法律上の原因があつたが、後に法律上の原因を欠くに至つたものである。しかし、いずれにしても、これらは、実体法上地方団体が保有すべき正当な理由がないため、不当利得として還付されるべき性質のものであり、また、還付加算金は、租税を滞納した場合に延滞金が課されることとの関連で、還付金に付される一種の利息であると解される。これを本件についてみれば、地方団体の長が減額更正をしたことによつて生ずる過納金の還付請求権は、申告に基づいて納付した税額が減額更正によつて超過納付となつた限度において、法律上の原因を欠く利得となる結果生ずる不当利得の返還請求権である。したがつて、適法に存在していた租税債務を消滅させるべき減額更正がされた時、即ち更正通知書が納税者に送付された時に、具体的金額の定まつた還付請求権(前記規定によつて定められている還付加算金を含む。)が当然に発生するのであつて、減額更正のほかに、地方団体の長が重ねてこれにつき何らかの確定行為ないし形成行為をすることを必要とするものではない。

三  原告は、請求の趣旨一1において、本件減額更正処分には還付加算金の額を決定する処分が含まれていると主張し、また、同一2においては、同更正処分に還付加算金の加算決定が随伴していると主張して、その取消を求める。しかしながら、法人等の市民税の更正は、申告に係る法人税額又はこれを課税標準として算定した法人税割額について行うものであつて、還付加算金の額を決定する処分を含まず、また、還付加算金の加算決定を随伴するものということもできない。

更に原告は、請求の趣旨一3、4において、平成三年九月一九日付還付(充当)通知書により過納金及び(又は)還付加算金の還付処分がなされたと主張して、その取消を求める。しかしながら、既に説示したところから明らかなごとく、本件において、右通知書により被告がした還付は、何ら実体的な権利ないし法律関係を変動せしめるものではなく、被告が原告に還付した額(還付加算金を含む。)が、法令に基づき正当に算定された額より過少であつても、これにより、原告が減額更正により当然に取得した過納金還付請求権の存否及び範囲に、何らの影響も及ぼすものではない。被告が現に還付した金額が過少であるというのであれば、原告としては、直接地方団体たる横浜市に対して正当に算定された額との差額の支払を求める当事者訴訟を提起して、その救済を図るべきである。

以上によれば、被告のした本件還付自体は、原告の権利義務その他法律上の地位を形成し、あるいはこれに具体的変動を及ぼし、又はその範囲を具体的に確定する等の効果を生ぜしめるものではないから、抗告訴訟の対象となるべき行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為ではないというべきである。

四  結局、原告が主張する行政処分(請求の趣旨一1、2)は存在しないか、あるいは原告が問題とする被告の行為(同一3、4)は処分性を有しないものというべきであるから、本件訴えはすべて不適法であつて却下を免れない。

(裁判長裁判官 佐久間重吉 裁判官 辻 次郎 裁判官 丸地明子)

《当事者》

原 告 永大産業株式会社

右代表者代表取締役 井上良治

右訴訟代理人弁護士 坂本秀文 同 山下孝之 同 長谷川宅司 同 今富 滋 同 織田貴昭 同 松本好史

被 告 横浜市中区長 岡部重之

右訴訟代理人弁護士 村瀬統一 同 栗田誠之

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